日々の忙しさに追われていると、自然とのつながりを感じる瞬間は少ないかもしれません。もし、私たちの暮らしの中にあるベランダや屋上という限られたスペースで豊かな自然とつながることができたら、その限られたスペースで育てたものを食べることができたら、日々の生活に、きっと新しい彩りや発見が生まれるのではないでしょうか。
先日訪れたのは、東京都練馬区新桜台に佇むゼロウェイストショップ Violetti(ヴィオレッティ)さんの屋上。この場所で開催されたイベント「ゼロから始める屋上菜園」はごみを資源に変え、屋上を未来のコミュニティガーデンにしようという、Violettiさんの温かい挑戦でした。記念すべき第1回は、「屋上菜園のはじめ方」。専門家を交えた座学から、実際の菜園づくりまでを体験してきましたので、屋上菜園の可能性と、そこから広がる循環する暮らしのヒントと共にイベントレポートをお届けします。
Violettiの挑戦:屋上から始まる「食べる循環」とコミュニティの未来
今回の「ゼロから始める屋上菜園」イベントは、単に菜園作りのノウハウを学ぶ場というだけではありませんでした。そこには、主催であるViolettiさんの、未来に向けた確かなビジョンと、地域や人々への温かい想いが息づいていました。屋上という限られた空間から、一体どんな「食べる循環」と「コミュニティの未来」が始まろうとしているのでしょうか。

ただの菜園じゃない、人がつながる場所に。
Violettiのコミュニティマネージャー「かぶちゃん」が語ってくれたのは、この屋上菜園に込めた熱い想いでした。「この屋上を、コミュニティスペース、特に『コミュニティガーデン』にしたいんです。まだ詳しくは決まっていませんが、誰もが参加しやすい形で開放したいと考えています。土いじりをしながら交流するだけでなく、ただ集まって話すだけでも良い、ここ(Violetti)が、そういう(コミュニティの)場所になったらいいなと思っています。」その言葉には、野菜を育てるという行為を超え、人々が集い、語り合い、笑顔が生まれる場所を創造したいという純粋な願いが込められていると感じました。また、将来的には育てた野菜を販売したり、イベントなどで提供したり、育てた人が持ち帰れるようにしたいと語ってくれました。
「ごみ」が「資源」に変わる場所
日頃からゼロウェイストな暮らしを提案するViolettiさんの哲学は、もちろん屋上菜園の構想にも深く根ざしています。今回作られたレイズドベッドには、木場の製材所から譲り受けた端材を使用。「Violettiらしく捨てられるはずのものに新たな役割を」という言葉通り、本来役目を終えた木材が、これから野菜を育む器へと生まれ変わります。将来的には、お店から出る生ゴミなどをコンポスト(堆肥化装置)で堆肥にし、菜園の土壌改良に活用することも計画中。店内で生まれた「ゴミ」が屋上で豊かな「資源」となり、新たな命を育む。そんな美しい「食べる循環」が、この場所で実現しようとしています。
地域と未来へ繋ぐ「都市型菜園のモデル」
かぶちゃんは、この屋上菜園を都市における循環型菜園のモデルケースにし、都市の未利用空間を緑に変え、持続可能な社会へと繋ぎたいと語ります。「屋上とかで(菜園を)やれると、一つのそのモデルになるかなって。屋上が空いているビルはたくさんありますから。」そして、「(プランターを)いっぱい作りたいんで、できるだけ軽い土を使おうかなって思っています。だって、軽ければ軽いほどたくさん置けますもんね」という飾らない言葉からは、より多くの人にこの菜園の楽しさと豊かな実りを分かち合いたいという、Violettiさんの温かい展望が伝わってきました。
専門家と学ぶ「屋上菜園のはじめ方」~都会の空の下、緑を育む知恵と工夫~
Violettiさんの屋上菜園プロジェクト、記念すべき第1回の座学では、都市における菜園づくりのプロから、貴重な知識と実践的なノウハウを学ぶことができました。講師は、一般社団法人ジャパンベジタブルコミュニティ代表理事の阿部義道さん。長年にわたり、都市で環境と人に優しい菜園づくりを提案し、その普及に尽力されている方です。
阿部さん自身20年以上野菜を育てており、その実体験を踏まえた分かりやすいお話は、自然環境とは異なる都市部の屋上やベランダといった限られた空間の活用方法や、安全に楽しむための注意点について、深く理解するきっかけとなりました。

屋上やベランダで野菜を育てるなんて、難しそう…」そう感じている方も多いかもしれません。しかし、基本的なポイントさえ押さえれば、誰でも気軽にチャレンジできると阿部講師は言います。
最重要ポイント:建物の安全と土選び

まず、屋上菜園で最も気をつけるべきは「建物の安全」です。阿部講師は、「普通の土は、1㎡あたり深さ20cmで約200kg、深さ30cmだと約300kgもの重さになることがあります」と、具体的な数字を挙げてその重量を説明。これは、一般的なビルの屋上が耐えられる重さ(建築基準法で定められた積載荷重、多くは1㎡あたり180kg程度。地震等の災害を考慮するとその1/3である1㎡あたり60kg程度が1つの安全基準)を簡単に超えてしまう可能性があることを意味します。「安全に楽しむためには、まずこの『建築荷重』を必ず確認し、それを超えないように軽い土を選ぶことが何よりも大切です」と強調されました。
Violettiさんで使用する予定の土は、そば殻やヤシ殻などが主原料の有機の軽量土壌。実際にイベントで用意された土に触れてみると、驚くほどふかふかで軽く、これなら屋上でも安心して使えそうです。「この土なら、1㎡あたり深さ18cmでも約50~60kg程度に抑えられます」とのこと。土選び一つで、屋上菜園の可能性がぐっと広がることがわかりました。
意外と色々育てられる!土の深さと野菜の種類
「屋上だから、たいした野菜は育てられないのでは?」という心配もご無用です。阿部講師によると、18cm程度の土の深さがあれば、小松菜やほうれん草、春菊といった葉物野菜はもちろん、サツマイモや大根のような根菜、さらにはミニトマト、ナス、キュウリといった実のなる野菜、そしてバジルやミントなどのハーブ類まで、十分に育てることができるそうです。さらに、土の深さ35cmでブドウ、レモン、ブルーベリーなどの果樹も栽培できるようになるとのこと。「え、そんなに色々育てられるの?」と、参加者からも驚きと期待の声が上がっていました。
屋上環境との上手な付き合い方:何よりも大切な「風対策」
屋上菜園で特に注意しなければならないのが「風対策」です。阿部講師は、「屋上に置いたプランターや、野菜を支えるための支柱、鳥よけのネットなどが強風で飛ばされてしまうと、大変危険です」と警鐘を鳴らします。万が一、それらが道路に落下して通行人に当たったり、隣接する線路に飛んでいってしまったりすれば、大きな事故につながる可能性があります。「屋上は地上よりも風の影響を受けやすいことを常に意識し、飛散防止対策は徹底してください」と、その重要性を繰り返し強調されていました。
イベント体験レポート:未来の菜園へ、みんなで込めた循環の願い
座学で屋上菜園の基本と可能性を学んだ後は、いよいよViolettiさんの屋上へ! 参加者一同、期待に胸を膨らませて、実際の菜園づくりの第一歩を踏み出しました。そこは、都会の喧騒を忘れさせてくれるような、穏やかで温かい時間が流れる空間でした。
手作りベッドに、想いを込めて~Violetti流「循環」の実践~
屋上には、かぶちゃんが事前に愛情を込めて手作りした3つのレイズドベッド(木枠のプランター)が設置されていました。この日のワークショップは、これらのベッドに、Violettiさんならではの「循環」の想いを込めた様々な素材を、参加者みんなで力を合わせて投入していく作業です。

まず投入したのは、なんと使い古された「ふとん」から生まれた、ふわふわのリサイクル素材でした。これは、ナチュラルコットン製品の「おたふくわた」を取り扱うハニーファイバー株式会社が、回収した古ふとんを綿工場にてリサイクルし、屋上庭園をはじめ公共施設や一般企業で屋上緑化用の土壌シート「ふとんフィルター」としても活用しているというもの。「実は、原宿のど真ん中にある『原宿はらっぱファーム』という農園でも、このリサイクルされた綿素材が土壌改良に役立てられているんですよ」という説明があると、参加者からは「へぇー!」「布団がそんな風に生まれ変わるんですね!」「そんなものも活用できるんだ!」と、驚きと感心の声が次々と上がりました。もともと植物由来の天然素材である綿は、吸水性や保水性にも優れているため、土壌の乾燥を防ぎ、植物が育ちやすい環境を作るのに大きな期待が持てるとのことです。

次に登場したのは、Violetti店舗の内装や家具をかぶちゃんが手作りした際に出たという、大小さまざまな形の木の端材。「土の中に木や丸太を入れることで、それがやがて土の中の微生物のエサになり、微生物が活性化して、より良い土壌になることを期待しているんです」とかぶちゃん。参加者は、大きな端材をその場で小さくしながら、丁寧にベッドの底に敷き詰めていきました。まさに、捨てられるはずだったものに新たな役割を与える、Violettiさんの哲学が息づく作業です。

そして最後に、園芸用で購入したものの余っていたという土を投入。こうして、参加者全員の手で、様々な想いと資源が詰まった、未来の菜園の土台が少しずつ形作られていきました。
(ちなみに、この日座学で紹介された専門家おすすめの軽量土壌は、イベント当日には準備が間に合わなかったため、後日、この手作りの土台の上に投入され、いよいよ本格的な野菜作りがスタートする予定とのことです。)
未来への期待を胸に~ここは「東京ベランダカレー」の部室!~

このViolettiの屋上菜園には、もう一つのユニークな役割がありました。それはなんと、「東京ベランダカレー(正式名称:東京のベランダで1からカレーライスを作る)」という、大人の部活動の「部室」になるというのです。
「東京のベランダでみんなが野菜やスパイス、そしてお米も育てたら?お塩だって作れるよ!これはみんなの部活動。プランター1つから参加できる本気の遊び。失敗したってネタ、成功したら万歳。それを年末にみんなで一緒に食べる!一緒にやってみない?」――そんなワクワクする呼びかけで活動している「東京ベランダカレー」。Violettiの屋上は、その部員たちが集い、情報を交換し、そして実際にカレーの具材を育てる大切な拠点の一つとなるのです。想像するだけで、美味しそうな香りと楽しそうな笑い声が聞こえてきそうですね。
おわりに:あなたの暮らしにも、循環する菜園という彩りを
Violettiさんの屋上で始まった「ゼロから始める屋上菜園」プロジェクト。その第1回イベントは、専門家から実践的な知識を学び、実際に手を動かして未来の菜園の土台を作るという、発見と喜びに満ちた時間でした。そして何よりも、この小さな屋上から、人と自然、そして地域が豊かにつながっていく未来への確かな希望を感じることができました。

「屋上やベランダという限られたスペースでも、工夫次第で緑を育むことはできる」
今回のイベントは、そのことを改めて教えてくれました。Violettiさんのように、建築の専門家のアドバイスを受け、軽量な土を選び、安全対策をしっかりと行えば、都会の空の下にも自分たちだけの実りの場所を作ることができるのです。
そして、Violettiさんの「ゴミを資源に」という姿勢は、私たちの日常にもたくさんのヒントを与えてくれます。お店で出た端材や、使い古された布団から生まれたリサイクルコットンを菜園に活かすように、私たちの周りにも、見方を変えれば新たな価値を持つものが眠っているのかもしれません。家庭で出る生ゴミをコンポストで堆肥にしたり、不用品をリメイクしたりと、日々の暮らしの中で意識できる小さな「循環」の輪は、きっとたくさんあるはずです。
Violettiさんの屋上菜園プロジェクトは、まだ始まったばかり。これからどんな野菜が育ち、どんな物語が紡がれていくのか、本当に楽しみです。今後もその成長と発展を、引き続き温かく見守り、お伝えしていけたらと思っています。
Violettiさんでは、この他にも「リペアカフェ」といったイベントや様々なワークショップが毎週のように開催されています。公式サイトまたはInstagramをチェックしてお店の素敵な取り組みを覗いてくださいね。
関連リンク
ゼロウェイストショップVioletti
住所:〒176-0003 東京都練馬区羽沢2丁目1−7(GoogleMAPで表示)
電話:050-1311-4129
公式サイト:https://violetti.jp/
Instagram:@ethical_violetti
一般社団法人ジャパンベジタブルコミュニティ
公式サイト:https://www.jvec.jp/
東京ベランダカレー
Instagram:@tokyo_veranda_curry
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Edible Tokyo Rally
公式サイト:https://edibletokyorally.wixsite.com/my-site
Instagram:@edibletokyorally
ハニーファイバー株式会社
公式サイト:https://www.otafukuwata.com/
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