ベランダから始める、小さな地球との対話 ~第1回:「自然プランター」で野菜を育てる理由~

日々の暮らしの中で、ふとした瞬間に、私たちが口にする食べ物について考えることはあるでしょうか。 スーパーに並ぶ色とりどりの野菜たちは、一体どんな道のりを経て、私たちの食卓に届けられているのでしょう。
自然との距離が離れてしまった種のこと、農薬化学肥料のこと、収穫後の洗浄薬品のこと、輸送のための殺菌処理のこと…。知れば知るほど、時に私たちはその過程の不自然さに気づき、そしてそれを確かめる術がないことにもどかしさを感じてしまうこともあるでしょう。「それならば、自分の手で育ててみよう」。そんなシンプルな想いが、小さな地球との対話をはじめるきっかけとなります。

この記事では、筆者がベランダの小さなスペースで始めた「自然プランター」での野菜作りを通じて感じている、食と自然、そして自分自身との新たなつながりについてお伝えします。それは、特別な技術や広い土地がなくても始められる、日々の暮らしの中で育む小さな地球との対話。あなたのベランダにも、そんな豊かな可能性が眠っているかもしれません。

目次

「自分で育てる」という選択  ~食の安心と、日々の小さな発見~

「自然プランター」から収穫したラディッシュ

食の裏側には、私たちが普段あまり意識しない様々な情報が隠れており、そのすべてを知ることはできません。「自分で野菜を育ててみたい」という想いは、そうした情報に触れた時に、より強くなるのかもしれません。野菜の栽培方法には、農薬や化学肥料を使う慣行農法から、有機栽培、そして自然農法に至るまで、本当に多様なアプローチが存在します。

生産された畑から私たちの手元に届くまでのあいだに、見た目を良くしたり、日持ちさせるために薬品で洗浄されることもあります。そうしたプロセスは、「自然」とは言いがたいものかもしれません。何より、その情報を消費者が詳しく知る機会は限られていますこうした見えない部分への疑問は、もしかしたら多くの方が一度は感じたことがあるのではないでしょうかそれならば、自分の目で確かめながら、安心して口にできるものを育ててみたい」。多くの人が抱く自然な反応だと思います。

最初は、プランターで野菜を育てるなんて難しそう、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。実際に、「気軽に始められそうだけど、意外と枯らしてしまう…」といった声も耳にします。しかし、植物が本来持つ力を引き出す環境づくりを意識すれば、ベランダの片隅や窓辺の小さなスペースからでも、実は大きな発見と心温まる喜びが生まれることを、実感できるはずです。

自然プランターが目指す“3つのつながり” ~土を育て、いのちをめぐらせる~

ベランダの小さなプランターから始まる菜園には、私たちが大切にしたいと考える、いくつかの想いや可能性があります。それは、単に野菜を収穫する喜びだけでなく、土を育み、いのちの循環を感じ、そして未来へとつながる持続可能なあり方を探求する、ささやかで大きな試みと言えるかもしれません。ここでは、「自然プランター」が目指す3つの大切な視点をご紹介します。

1.「自産自消」から見えてくる、食と自然との新たな関係

自分で収穫した野菜は、普段なら捨ててしまう部分もきっと食べたくなるはず。

「自給自足」と聞くと、少しハードルが高く感じられるかもしれません。特別な知識や広い土地がなければ難しいのでは、と。しかし、自産自消」ならどうでしょうか。自分で作物を産み出し、自分で消費する。この身近な一歩が、もしかしたら「地産地消」のような、より大きな視点へとつながる大切なきっかけになるのかもしれません。

自分で育てた野菜を、必要な分だけ収穫し味わう。そのシンプルな行為の中に、普段は見過ごしがちな「食べる」ことの本質や、自然との確かなつながりを見出すことができるかもしれません。それは、お店で買う野菜とはまた違った、特別な喜びや大切な気付きを与えてくれる自然との大切な対話となることでしょう。

2.土は未来への「贈り物」~土と体の健やかさ、そして持続可能な循環~

「自然プランター」は土を捨てることなく使い続けます

日々の食や健康について考える中で、元気な土で育った野菜をいただくことが、私たちの体の健やかさにも良い影響をもたらすのではないか、と思ったことがある方もいるかもしれません。実際に、土壌環境と作物の栄養価との関係については、さまざまな研究が進められています。

一般的なプランター栽培では、一度使った土は栄養を失い、役目を終え、廃棄されることもあります。しかし、「自然プランター」が目指すのは、土を単なる消耗品としてではなく、大切に育み、栄養を循環させ、持続的に豊かな実りをもたらしてくれる「未来への贈り物のように捉えることです。化学肥料に頼らず、自然に近い環境で人の手を極力加えることなく、土の中の微生物たちが元気に活動できるプランターを作ることができれば、それはまるで、ずっと私たちに恵みをもたらしてくれる大切な何かになるような気がしませんか。そんな期待を込めて、日々のプランターと向き合ってみるのも素敵なことかもしれません。

3.植物本来の力を信じて~化学肥料に頼らない、ありのままの姿を応援する~

「自然プランター」で目指しているのは、野菜たちが、無理なく、健やかに育ってくれるように、植物が本来持っている力をのびのびと発揮できるお手伝いをすることです。もともと植物たちは、人間に育てられることなく、自らの力で種を残し、命を繋いできました。長い年月の中でその姿や形は変化してきましたが、それでもなお、植物が持つ本来の生命力は確かに息づいています。だからこそ、「自然プランター」では、過度な手を加えず、自然に近い環境をプランターの中に再現することで、その力を引き出したいと考えています。

化学肥料は、不足している栄養素を補う手段としては有効であり、一時的に作物の成長を促すこともできます。しかし、土壌が本来生み出す栄養素ではないため、継続的に人の手を加える必要があり、結果として土が本来持つ力を損なうこともあります。

「自然プランター」では、化学肥料に頼らず、土の中の豊かな微生物の働きや、植物同士の相性(たとえばコンパニオンプランツについては、今後の記事でご紹介していく予定です)を活かしながら、野菜が自ら育つ力を支えています。それはまるで、プランターという小さな空間に、畑の自然菜園をぎゅっと凝縮したような試みです。野菜が持つ自然の力を信じ、引き出す工夫の積み重ねでもあります。

「自然プランター」から広がる、学びと暮らしの小さな変化

自分で種を取り、何も購入することなく収穫できるようになる」ことそれは、「自然プランター」を通じて目指すことのできる、ささやかで、しかしとても大きな目標の一つです。身近にあるものだけで野菜を育て、収穫までつなげる循環は、日々の暮らしの中に豊かさをもたらす営みでもあります。とはいえ、限られたスペースで理想的な自然農法を実現するには、さまざまな工夫や時間が必要です。本やインターネットにある知識だけでは、プランターという特殊な環境でうまくいかない場面も出てきます。たとえば、気候や土の状態、植物同士の相性など、実際に育ててみないとわからないことも多くあります。

「あめゆり」では、実際の畑での自然農法をヒントに、プランターでも取り入れられる自然農の工夫や、無化学肥料・無農薬で失敗しにくい栽培方法、さらには自家採種につながる栽培のヒントなどを、今後継続的に発信していきます。

難しく考える必要はありません日常生活の中で自然と関わる第一歩として、プランターひとつからはじめてみて、太陽の光や水の恵み、土の手触りを感じながら、暮らしの中に自然のサイクルを取り入れることで、毎日にささやかな彩りや発見を加えることができます。

おわりに:ベランダから広がる、豊かで持続可能な未来

「自然プランター」で育つニンジン、サニーレタス、スナップエンドウたち

「自然プランター」での野菜づくりは、安全な食材を育てる手段にとどまらず、日々の食事や環境との関わりを見直すきっかけとなります。そして何より、植物の成長を間近で見守る時間は、忙しい毎日の中に、ささやかな癒やしと心温まる喜びをもたらしてくれることでしょう。

「あめゆり」では、こうした取り組みを通じて、自然とともにある暮らしのヒントや実践的な知恵を今後も継続的にご紹介していきます。

次回は、「自然プランター」作りの準備編として、容器の選び方土の準備、微生物が育ちやすい環境づくりなど、具体的なステップをご案内する予定です。

そして、もしこの記事を読んで、少しでも「自分も何か始めてみたい」と感じていただけたなら、まずは小さなプランターひとつ、ハーブ一鉢から、土に触れることから始めてみるのはいかがでしょうか。その小さな一歩が、あなたの日常に新しい彩りをもたらし、やがては私たちを取り巻く環境や社会を、少しずつでもより良い方向へと変えていく、かけがえのない力になるのかもしれないのですから。


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