毎日のようにキッチンから出る生ゴミ。
私たちはそれを当たり前のように「ゴミ」として処理し、収集車が運んでいくのを見送っています。
けれどその生ゴミは、もともと自然から生まれたものであり、本来は土に還るのがあたりまえの営みでした。
自然の大きな循環の中に、もう一度その流れを取り戻すことができたなら——
「コンポスト」は、そんな日々の暮らしと自然とを、静かにつなぎ直してくれる小さな仕組みです。
コンポストとは、生ゴミや落ち葉などの有機物を微生物の力で分解させ、栄養豊富な堆肥に変えること、またはそのための容器や仕組みのこと。
それは、単にゴミを減らすだけでなく、土を育て、自然の大きな循環を感じるよろこびをもたらし、私たちの暮らしや意識に新しい風を吹き込んでくれるかもしれません。
先日、そんなコンポストの魅力と可能性を深く知るためのイベント、練馬区のゼロウェイストショップViolettiで開催された「生ごみゼロから始めるゼロウェイストライフ」に参加してきました。
この記事では、イベントで得られた「始め方のヒント」と、「地球とつながる暮らし」を提案する主催者の想いをお届けできたらと思います。
一方通行の暮らしから、循環する社会へ

「私たちが普通だと思っている暮らしは、実はとても偏っているのかもしれません。」
そう語るのは、今回講師を務める「じゅんきち」こと福本詢子さん。
東京ベランダカレーの部長としてユニークな取り組みを広げながら、コンポストのアドバイザーとしても活動を続けています。「捨てない暮らし」をテーマに、日々の実践から生まれる気づきや工夫を、多くの人に伝えている方です。
イベントでは、かつての日本の山・川・海の“つながり”を描いた図とともに、今の都市型社会との対比が語られました。
「昔は、木の葉が落ちて、雨とまざり、腐葉土となり、そこからミネラルを含んだ水が川に流れ、やがて海へと届いていた。そのサイクルのなかに、人も、暮らしも、いたんです。」
一方で、現代社会は「一方通行」になってしまったといいます。
食べ物は遠くから運ばれ、ごみはどこか別の場所で燃やされる。
消費と廃棄の裏側に、わたしたちは立ち会うことなく日々を送っています。
「ゴミの約4割は生ごみで、そのほとんどが水。つまり、私たちは税金を使って水を燃やしているんです。」
という事実を知り、日々何気なく繰り返していた行為の先に、こんな現実があったのだと、静かに心がざわつくのを感じました。
「捨てない暮らし」の実践者として:講師・じゅんきちさんのことば

じゅんきちさんは、東京のマンション暮らしのなかで「生ごみだけはどうにもできなかった」と話します。
「リサイクルしたり、買わなかったり、できることはしていたけれど、
ベランダでできる方法があるとは、思っていなかったんです。」
そこで出会ったのが、LFCコンポスト。
「ベランダでもできる」と聞いて試してみたところ、予想に反してうまくいったといいます。それが「食の循環」を自分の暮らしのなかで感じる、はじめての体験でした。
「生ごみを捨てずに済むことは、想像以上に心が軽くなるんです。」
今では、ごみ処理の講座だけでなく、「土をつくる」という視点から、
環境問題やエネルギーの話までを語る講師としても活動。
ときに学校やマルシェにも足を運び、「難しくない始め方」を伝えています。
「私がコンポストを勧めるのは、土をつくってほしいから。
コンクリートばかりの世界に、少しでも土を取り戻すこと。それは、未来への責任でもあると思うんです。」
「コンポストに、失敗なんてない」自分に合ったかたちを見つける時間

イベントでは、参加者一人ひとりの暮らしに寄り添う「コンポスト診断」が行われました。マンション? 一軒家?
生ごみの量は多い? 虫は苦手? 堆肥は使いたい?
そんな問いにゆっくりと向き合いながら、自分にとって無理なく続けられる方法を探していきます。
じゅんきちさんは言います。
「コンポストって、全部正解なんですよ。絶対失敗はない。
みんなが失敗だと思っていることも、意外とそうじゃないんです。」
そんな言葉の通り、会場では「正しくやらなきゃ」という緊張感が少しずつほぐれ、笑顔とともに“わたし仕様”の選択が交わされていきました。
紹介されたのは、次のようなコンポストスタイルです。
- キエーロ型:土の上で分解する方式。虫が寄りにくく、堆肥は残らず土に還っていきます。
- バッグ型(LFCなど):ベランダでも始めやすく、見た目もスマート。堆肥も回収できます。
- 密閉型(EM菌など):台所に置ける発酵型。液肥ができる反面、発酵後の土への移し替えが必要。
- ミミズ型:ミミズの働きで高品質の堆肥ができる本格派。管理の慣れは必要ですが、自然との関わりがぐっと深まります。
どの方法も、それぞれに魅力があり、制約があり、そして楽しみがあります。
「どれが合うか」は、暮らしのかたちと、心の余白によって、そっと決まっていくのかもしれません。
これならできるかも——参加者のまなざしとことば

「やってみたいけれど、何だか難しそう……」「虫が来たらどうしよう……」
そんな小さな不安を抱えながら、今回のイベントに足を運んだ方も少なくありませんでした。
ある女性は、ベランダでしそやハーブを育てながらも、「生ごみだけはどうしても手がつけられなかった」と語ります。
「虫が来るかもしれないと、ご近所への配慮もあって、なかなか踏み出せなかったんです。でも、LFCコンポストのような虫が入りにくいタイプがあると聞いて、すごく安心しました」
印象的だったのは、彼女が続けることを一度に完璧にしようとしない姿勢でした。
「夏は虫が増えるのでお休みして、冬になったらまた再開するようにしています。1年中続けるのではなく、できるときに、できる方法で取り入れていけたらと」
そうした無理のない実践が、日々の暮らしにそっと馴染み、自然とともにある感覚を育んでいるようでした。
また、通りがかりにふらりと立ち寄ったという女性の姿も。
「以前テレビでバッグ型のコンポストを見たことがあって、あれがそうかな?と思って参加しました」
実際にコンポストに触れてみて、それぞれの特徴や始め方を聞いたことで、「自分の暮らしにも合う方法がある」と気づいたといいます。
「最初は“なんとなく気になる”くらいだったけれど、話を聞いてだんだん身近に感じられて。ちょっとやってみたいなと思いました」
それぞれ異なる生活背景や動機を持ちながらも、参加者のまなざしには共通して、“暮らしを変えてみたい”という静かな願いが宿っていました。
「とりあえず、やってみたい」へのやさしい仕組み

このイベントでもうひとつ印象的だったのは、コンポストを始めるハードルをそっと下げてくれる、やさしい仕組みの数々でした。
- バッグ型コンポストのレンタル制度(デポジット制)
気軽に「まずは試してみる」が叶う、実質無料のスタート方法。 - キエーロのサイズオーダー&製作会
診断結果をもとに、自分の家に合ったサイズで作れるうえ、後日一緒に組み立てる場も用意されているそう。 - LINEコミュニティによるフォローアップ
購入後も「わからない」「困った」にすぐ応えてくれる、つながりのある仕組み。
こうした工夫が、「一人でできるか不安…」という声に、そっと寄り添っていました。
参加者からは、
「買うんじゃなくて、“試せる”のがうれしい」
「使い方を相談できる場所があると、安心して始められる」
という声も自然にこぼれました。
実際、参加者のうち4名はその場でバッグ型コンポストのレンタルを決め、スタッフから使い方のレクチャーを受けたあと、共通のLINEグループを立ち上げて、運用の様子を共有しながら小さな実践を始めていました。
「まずは、やってみる」その背中を押してくれる仕掛けが、随所にちりばめられていたのです。
まずは、知ることから。Giraffe Communityが伝えたいこと

今回のイベントは3つの団体による共同主催によって開催されました。そのうちの1つ、「ラフでラブなサスティナブルライフ」をスローガンに掲げる環境団体、Giraffe Community。代表の志和 里(しわ さと)さんは、自身の経験から生まれた想いをこう語ってくれました。
「家の庭にコンポストを埋めていたんですが、虫が発生してしまって。そのことをきっかけにコンポストの話を周りにしていたら、“興味はあるけどやれていない”とか、“前にやってみたけど諦めちゃった”という人が想像以上に多かったんです。だったらみんなで集まって、一緒に学べたらと思ってイベントを開きました」
志和さんがこの活動に込めるのは、小さなきっかけが、暮らし全体の見直しにつながるかもしれないという希望です。
コンポストを始めることで、生ごみに意識が向き、次第にプラスチックや包装、買い方、食べ方へと視野が広がっていく。そんな“連鎖”が生まれることに、確かな手応えを感じているといいます。
「コンポストは入り口として、とてもやさしいんです。気持ちよくて、結果も見えるし。そこから発酵料理に興味を持ったり、健康や環境問題のことを深く知っていったり。菌や生きものの世界を知ることで、考え方や感じ方が変わっていく。そんな面白さがあると思います」
Giraffe Communityでは今後も、コンポストに限らず、選挙の予習会や服の交換会、プラスチックフリー体験など、日常の問い直しをテーマにしたさまざまなイベントを企画中とのこと。
まずは知ること。そして、自分にできることから。
そんな一歩が、地球とのつながりを少しずつ取り戻していくのかもしれません。
おわりに:小さな循環から、生まれる希望

ふだん何気なく捨てている生ごみを、もう一度、土に還してみる。
それはほんの少しの手間と、小さな工夫から始まる暮らしの選択です。
コンポストを「やらなきゃ」と思うと、負担に感じることもあるかもしれません。
でも、「とりあえず、やってみたい」「なんとなく、気になる」——その気持ちだけで、十分なのかもしれません。
イベントに参加した人たちが語っていたのは、「完璧じゃなくていい」という安心感でした。
夏はお休み、冬だけやってみる。続かなかったら、また別の方法を探してみる。
「コンポストに失敗なんてない」——そんな言葉が、参加者の表情をそっとやわらげていたのが印象的でした。
ゆるやかな実践の重なりが、やがて大きな循環を育てていく。
生ごみを減らすことは、ゴミ出しをラクにするだけではなく、
自然の命のサイクルにそっと触れながら、自分の暮らしのあり方を見つめなおす時間でもあります。
一人の試みが、やがて誰かの勇気につながるように。
コンポストという文化が、暮らしの中にしずかに根づいていくことを願って——。
関連リンク
<共同主催者>
ゼロウェイストショップVioletti
住所:〒176-0003 東京都練馬区羽沢2丁目1−7(GoogleMAPで表示)
電話:050-1311-4129
公式サイト:https://violetti.jp/
Instagram:@ethical_violetti
東京ベランダカレー
Instagram:@tokyo_veranda_curry
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Giraffe Community
公式サイト:https://edibletokyorally.wixsite.com/my-site
Instagram:@giraffe_community.s