ベランダから始める、小さな地球との対話|第2回:植物と水の対話から考える「器」のかたち

自然と共にある暮らしを、少しずつ日常に取り入れてみたい──。
そんな想いから始まったあめゆりの「自然プランター連載

第1回では、「自然と小さくつながる食卓の第一歩」として、循環を意識した野菜づくりの考え方をお届けしました。第2回となる今回は、いよいよ器=プランター選びについて、少し具体的なお話をしていきます。

家庭菜園やベランダガーデニングというと、まず土やタネが浮かぶ方も多いかもしれません。でも実は、「どんな器を使うか」は、その後の育て方や収穫のしやすさにとって、とても大切な要素。水との付き合い方や、置く場所に合わせた工夫など、ポイントをやさしく紐解いていきます。

目次

どんなプランターが適しているの?

自然栽培を意識したプランター野菜づくりでは、自然の土壌のように「植物がのびのびと根を張れる環境を再現することがポイントになります。そのためには、選ぶ器(プランター)の深さや容量、水のたまり方がとても重要な要素になります。以下の条件を満たす器が理想的です。

  • 深さが30cm前後あるもの
  • 容量が20L〜40L以上のもの
  • 水抜き穴がない、または塞げるもの

それぞれ解説していきます。

深さが30cm前後あるもの

自然の土壌と同じように、植物の根が自由に広がれる環境を整えるには、おおよそ30cm前後の深さがあると安心です。たとえば、小松菜やラディッシュ、ミニトマトなどの葉物・果菜類に加え、サツマイモやジャガイモ、品種を選べば人参や大根などの根菜類もプランターで育てることが可能です。

深さがあることで、以下のようなメリットがあります。

  • 土の温度や湿度が安定しやすい
  • 根の成長がスムーズになり、ストレスが少なく育つ
  • 葉の色つやや実のつき方に良い影響が出やすい

容量が20L〜40L以上のもの

土の量は、植物にとっての「暮らす空間」。容量が大きいほど、水分や養分をたっぷり蓄えることができ、乾燥や寒暖差の影響も受けにくくなります。たとえば冬場なら週に1回程度、夏場でも週に2〜3回の水やりで安定して育つ場合もあります。

また、収穫の質や安心感にもつながる効果があります。

  • 根がしっかり張れる分、倒れにくく、風にも強くなる
  • 収穫量にも差が出やすい(実付きの良さなど)
  • 土壌環境のバランスが保ちやすく病害が発生しにくくなる

水抜き穴がない、または塞げるもの

自然プランターでは、雨水などを活かしながら「水がたまってゆっくり循環する」仕組みを大切にします。このため、水抜き穴がない容器や、一時的に穴をふさげるタイプの器が向いています。これは、自然の土壌が持つ「保水力」を再現しようとする考え方に基づいており、土中に適度な湿り気を保つことで、植物が必要なときに自分で水分を吸い上げることができます。
なお、穴が空いている容器を使う場合は、下記の『水と器の「いい関係」を育てる方法』で紹介しているように、底に軽石などを敷く工夫が効果的です。

どんな素材が、わたしの暮らしに合う?

自然プランターに適した素材は、「自然のリズムを妨げないこと」と「暮らしに無理なくなじむこと」の両立がポイントです。素材ごとの特性を知って、自分の環境に合った器を選びましょう。

素材メリットデメリット

プラスチック製
・保水性が高い
・軽くて扱いやすい
・入手性が高く価格が手頃
・保水性が高い
・軽くて扱いやすい
・価格が手頃

素焼き・テラコッタ製
・通気性が良い
・水はけが良い
・重みがあって安定
・土の乾きが早い
・割れる危険性
・重量がある

木製
・通気性が良い
・保温性がある
・馴染みやすい見た目
・耐久性に注意
・カビ・腐食の可能性あり
・手入れが必要

プラスチック製:扱いやすく、手軽な素材

  • 軽くて持ち運びがしやすく、扱いやすいのが最大の魅力。
  • ホームセンターやネットでも手軽に手に入るため、初めての方にも向いています。
  • 一方で、直射日光が当たり続けると劣化しやすいため、屋外で長く使う場合は注意が必要です。

素焼き・テラコッタ製:通気性と温度の安定が魅力

  • 素焼きのプランターは、土の中の温度や湿度を緩やかに保ってくれる性質があります。
  • 通気性が高く、植物の根にとっても快適な環境を作りやすい反面、重さがあり割れやすいというデメリットもあります。
  • 小さなお子さんやペットがいるご家庭では、設置場所を慎重に選ぶと安心です。

木製・金属製など:ちょっとひと手間かけて育てる器

  • 木製や金属製の容器はデザイン性が高く、自然の雰囲気にもよくなじみますが、耐久性や保水性の面では注意が必要です。
  • 木は腐食しやすく、金属は高温になりやすいため、長期使用にはひと工夫が求められます。
  • 植物の環境を守るために、内側を保護するシートを使ったり、水分調整に配慮することで、木や金属の容器もやさしく活かすことができます。

水と器の「いい関係」を育てる方法

自然プランターでは、雨水を活かした「水の循環」も大切なテーマのひとつです。頻繁に水をあげなくても、土の中にゆっくりと水がとどまり、必要なときに植物が吸い上げられる──そんな穏やかな仕組みを目指します。

そのためには、器の選び方と水を「ためる」ためのひと工夫が重要になります。でも、むずかしく考えなくても大丈夫。お手持ちのプランターや、身近な容器でも、ちょっとした工夫で自然プランターとして活躍してくれます。

器のタイプ別・水をためる工夫の例

いずれの場合も、目指したいのは雨が降ったら水が行き渡り、晴れの日にはゆるやかに乾くという、自然のリズムに寄り添った環境です。器の素材や形状、置き場所の条件(日当たり・風通し)などに合わせて、自分なりの工夫を加えてみましょう。

器のタイプ工夫の例期待できる効果
穴がない or 塞げる容器器の底に粘土質の土を敷き、水が自然に留まるようにする保水性が高く湿度が安定し、根が自然に水を吸える環境が整う
穴のある容器底に軽石などを敷き、排水しすぎないように調整する余分な水は排出されつつ、軽石が適度に水分を保持し、土にゆるやかに戻すことで、通気と保水のバランスを保てる
土が常に濡れていると、劣化が早い?

自然の大地では、雨が降っても、やがて水は地中にしみ込み、乾いたり、風にとばされたり…そんな「呼吸するような循環」があります。底面給水プランターはヨーロッパなど乾燥地帯で多く使われている方法ですが、日本のように湿度が高い環境では、うまく調整しないと水が多すぎてしまうことも。そんなときは、軽石を底に敷いたり、土の種類を見直したりして、通気性とのバランスをとることが大切です。

ゆるやかに水を蓄えながら、風通しのよい環境をつくる。そんな呼吸する土が、植物にとって心地よい住まいになります。

雨水は、植物にとって「自然からの贈りもの」

雨水は、空からただ降ってくる「水」ではありません。
海から蒸発し、雲となり、やがて地上に戻る――。長い旅路を経て、私たちの手元へと届いたその水は、まさに地球の循環そのものです。そしてこの雨水は、自然プランターでの野菜づくりにもぴったりの恵みの水

実際に、雨水には塩素が含まれておらず、植物にやさしいという特長があります。微量なミネラルや窒素化合物が含まれることもあり、場合によっては水道水よりも生育に適していることもあります。さらに、弱酸性に近いため、アルカリ性に傾きやすい土壌バランスを整える作用も期待できます。

器の工夫を通じて、雨水を活かした「循環のミニチュア」をつくる──それは、自然のリズムに寄り添う暮らしの入り口でもあるのです。

あなたに合う器はどれ?──おすすめプランターと、置き場所の選び方

自然プランターでの野菜づくりは、置き場所やプランターの素材によって、育てやすさが大きく変わってきます。特に屋外に設置する場合は、「重さ」と「安全性」にも配慮が必要です。これまでご紹介してきた条件(深さ・容量・水抜き穴など)をふまえながら、自分に合った器のイメージをふくらませてみましょう。

おすすめのプランター2選

以下は実際に使用・検討した中から選んだ、初心者にも扱いやすい器たちです。実用目線で、特徴を比較してご紹介します。入手性と価格を重視しましたので、「手っ取り早く始めたい」「続くかわからないけど始めて見たい」という方にお勧めです。

ご紹介しているプランターのリンクは、アフィリエイト(広告)ではありません。
気になる商品があれば、リンク先で詳細や口コミをご覧いただき、ご自身の暮らしや育てたい植物に合うかどうか、ゆっくりと検討してみてくださいね。

アイリスオーヤマ ベジタブルプランター680

商品サイズ:幅約68cm×奥行約34cm×高さ約26cm
重量:約1.1kg
土の容量:約37L
材質:ポリプロピレン
金額:1,200円前後

おすすめポイント

  • 公式サイトをはじめ、主要な通販サイトで入手可能。
  • 底に穴が空いてますが付属パーツで穴を塞ぐことができる。
  • プランターの縁に支柱を取り付けられる穴が開いていて多様な野菜に対応

グリーンパル 給水式菜園プランター 650型(コロ付)

商品サイズ:幅約65cm×奥行約32cm×高さ約32cm
重量:約1.4kg
土の容量:約30L
材質:ポリプロピレン
金額:1,300円前後

おすすめポイント

  • 主要な通販サイトで入手可能。
  • ペットボトルを差して給水可能で長期外出時も安心
  • コロ付きなので楽に移動ができます。

置き場所によって注意したい 「耐荷重」 のこと

自然プランターは、たっぷりの土と水を使う分、意外と重量があります。屋上やベランダなどの高所に置く場合には、「耐荷重」への配慮が必要不可欠です。特に屋上での設置を考えている方は、強風時の「風対策」についても意識しておくと安心です。

以前、屋上に菜園をつくるイベントに参加した際、専門家の方から「プランターの重さ」や「風の影響」についてお話を伺う機会がありました。詳しくは、以下の記事でそのときの体験をレポートしていますので、ぜひ参考にしてみてください。

「今あるもので始めてみる」という選択肢も

プランターって、やっぱり買わなきゃいけないの?
そんなふうに感じている方にこそ知ってほしい、小さな実践があります。

東京のベランダでカレーライスを1から育てるというユニークなプロジェクト、「東京ベランダカレー」では、参加者のみなさんが、ペットボトルやバケツなど今あるものを活かして野菜づくりに挑戦しています。

たとえば、

  • 切ったペットボトルと、使用済みのアルミホイルでつくった自作プランターで、タマネギの栽培に挑戦
  • 使わなくなったバケツをアップサイクルし、小さな田んぼのような環境を再現して、稲作に挑戦

どれも、特別な道具がなくても、「はじめてみよう」という気持ちから生まれた創意工夫です。
器を「選ぶ」というより、「見つける」感覚に近いのかもしれません。

完璧な器じゃなくても大丈夫。手元にあるものを見つめ直すことから、自然との対話は始まります。

参考:@tokyo_veranda_curry
「東京ベランダカレー」の活動紹介(Instagram)

投稿1:自作プランターでタマネギを栽培する方

投稿2:バケツで稲作に挑戦する方

おわりに:器は、自然と暮らしをつなぐ「入り口」

器を選ぶという行為は、単に「道具をそろえること」ではありません。
器の素材や形、大きさ、そして水との関係、その一つひとつが、植物との時間をやさしく支え、私たちと自然とのつながりをつくっていきます。

自然プランター」は、ただの菜園ではありません。
雨と土のやりとりを感じ、植物の声に耳を澄ませるなかで、日々の暮らしにやさしい循環を取り入れていく、小さな実験でもあります。

プランターは、自然との対話が始まる、小さな入り口。
「自然プランター」を生活に取り入れ、土と水と光のめぐりを毎日そっと観察してみる。そんな時間のなかで、自分だけの地球を育てるような感覚を大切にしていけたら素敵です。

次回は、いよいよ「」についてご紹介していく予定です。
自然プランターにおける土の選び方や、微生物とのつき合い方など、育つ環境をつくるという視点から、やさしく紐解いていきます。

目次